特養からおおきなわ

福祉について発信します

神様のプレゼント 3話

真夜中に目が覚める。いや覚めていたのだろうか
少しずつ意識がはっきりしてくる。

 そろそろ隣のじいさんも起きるころだろう。
 そう考えていると、やはり声が聞こえてきた。

 「鈴木さん、起きとるか」
 
 その声はいつもと変わらない。
 俺は嬉しさを隠しながら応える。

 ああ、じいさん起きてるよ。

 じいさんは続ける。
 「今日はいったい何月何日かの」
 

 そうだなとうなずき、ベッド横にある日めくりのカレンダーを見る。

 じいさん、どうやら今日は3月3日らしいぞ。
 まあ、ちゃんとめくられていたらの話しだがな
 
 「3月?」
 「年が明けたと思ったら、もうそんなに経つのか」

 じいさんでも、そう思うのか?
 日頃は何もわかっちゃいないのに。

 「そういう、あんたも似たようなもんじゃろうよ」

 じいさんの年からしたら、もう月日なんて関係ないんじゃないか?

「人を妖怪みたいに言うんじゃないよ」
「いくつになっても、気になるもんじゃ」
 
 
 他愛もない話しが続く。

 俺は何年か前からこの施設で暮らしている。

 入った頃の事も良く覚えていないのだが、いつの頃からか意識がはっきりしなくなり、不思議な世界の中を彷徨うようになった。

 時おり聞こえる人の声と様々な顔。
 暗い闇と明るい世界が交互に訪れ、自分が何を考えているのかも良く分からない。
 コマ送りのように流れる世界で、その一瞬一瞬の中、過去も未来もない。


 それがいつの頃からか、月に1回ほど頭がすっきりし、このように会話も出来る日が訪れるようになった。

 それが今日という日なのである。
 


つづく