特養からおおきなわ

福祉について発信します

神様のプレゼント 4話

「所で鈴木さんよ。この間から働いている職員さんは優しくて綺麗じゃの」
 「わしは、 あの子の優しい声を聞くと幸せな気分になるんじゃよ」

 じいさんは、日頃の事を良く覚えている。いつもは「う~ あ~」しか言わないのだが。

 俺は、じいさん程覚えていない。

 けど、 あ~ 丁寧だな。 乱暴だな。 という事は何となく分かるし、表情からも伝わってくる。

 何も覚えていないが、感情は残っているというのだろうか。
 真っ黒い感情になる時もあれば、とても幸せな気分になる時もある。


 じいさんは続ける。

 「鈴木さんよ、わしが言った事は覚えているかい」

 この覚えているという事がとても嬉しく感じ、俺はすぐに応える。

 あ~ 覚えてるよ、じいさん。

 じいさんの話しによると、この日俺達は普通にしゃべれるのだけど、職員とは話をしないほうがいいとの事だ。

 何でも昔、

 「もう少し優しくオムツ交換しろ」

 「頑張って食べて下さい 下さいって、うるさいんだ」

 「90を超えてる男にボール遊びなんてさせるな」 

 なんて散々言ったものだから、おかしくなったと大騒ぎになったそうだ。

 まともになったはずなのにおかしな話しだよな。

 この日はとても楽しく、ずっとこのままでいたいと思うのだが、いつの間にか眠ってしまう。

 ずっとこのままでいれたら、どんなに幸せだろう。

 それでも夜は進み、真っ暗な世界が全てを包み込むようにいつの間にか広がっていく。静かに、そう、本当に静かに広がっていく。


「鈴木さん、朝ですよ~  おきて下さ~い」
いつもの声が聞こえてくる。



 つづく